今回は私の好きなマネージメント編になります。toC領域の価値提供型にとって、アウトカムを実績や成果とすることは当然かと思います。数値的インパクトに責任を持てないのならtoC領域をやめた方がいいとはっきり言います。
それでは、マネージメントの根本と考えていることについてお話しいたします。
「利他」と「成果」。この二つを両立させようとすると、多くのマネージャーはどこかで違和感を覚えます。メンバーに優しく寄り添えば数字が緩む気がするし、数字を追い込めば誰かを犠牲にしているような気がする。私自身も長くこのジレンマに悩んできました。
ただ、稲盛和夫さんの思想に触れ、PdMとして現場で試行錯誤してきた結果、今はこう考えています。
「利他的であること」と「成果を出すこと」は、本来まったく矛盾しない。
むしろ、プロダクトを通じて価値を届けることを仕事にするPdMにとって、「利他」は成果を最大化するための一番強いエンジンになります。本記事では、稲盛哲学のエッセンスをベースに、PdMマネージャーが現場で使えるリーダーシップの型として整理していきます。
なぜ「利他」と「成果」は矛盾して見えるのか
まず、なぜ私たちは「利他的であろう」とするときに、どこかで成果とトレードオフだと感じてしまうのでしょうか。背景には、次のような思い込みがあることが多いと感じています。
- メンバーに厳しくしないと数字は伸びない
- 一人ひとりに寄り添っていたら、スピードが落ちる
- チームの幸せより、まずは事業の成長を優先すべきだ
ここで一度立ち止まってみると、「利他」と「成果」は別のものとして語られています。利他は“人のために動く姿勢”であり、成果は“アウトカムとしての結果”です。本来は、「誰にどんな価値を届けたいのか」という利他的な視点が、プロダクトの方向性とKPIを決める出発点であるはずです。
つまり、矛盾しているのではなく、単に順番が逆転してしまっているだけなのだと思います。数字だけを先に置き、「このKPIを達成するために人をどう動かすか」と考えるから、どこかで無理が出る。逆に、「誰のどんな人生を良くしたいのか」から出発すれば、自然とKPIやロードマップの意味づけが変わります。
稲盛哲学に学ぶPdMリーダーの前提
稲盛さんの言葉の中で、私がマネージャーとして一番支えにしているのは、次のような考え方です。
- 利他の心で仕事をする
- 動機善なりや、私心なかりしか
- 心を高める、経営を伸ばす
これをPdMマネージャーの現場に翻訳すると、前提はとてもシンプルになります。
- ユーザーにとって本当に良いことをするという動機から企画を始める
- 自分の評価や立場よりも、プロダクトとチームの長期的な健全さを優先する
- メンバーに対しても、相手の成長と幸せを願うスタンスで接する
この前提が腹落ちしていると、日々の細かな判断が変わってきます。「この施策、数字は出るけれどユーザー体験を削っていないか?」「この依頼の出し方は、メンバーを消耗させないか?」と、自分の中のチェックポイントが自然と増えていきます。
一方で、利他的であることは「甘くすること」とは違います。プロダクトを通じて価値を届けるためには、ときに厳しい判断を下すことも、利他の一部です。中途半端な品質でリリースしてユーザーに不便を強いることは、決して利他的とは言えません。
心で支え、構造で導くマネジメント3原則
では、稲盛的な「利他」を、PdMマネージャーはどう現場に落とし込めば良いのか。私は次の3つを意識しています。
1. 利他からKPIを設計する
最初のポイントは、「誰にとってのどんな価値が最大化されれば良いのか」からKPIを決めることです。売上やCVRといったビジネス指標ももちろん重要ですが、その前に「価値指標」を明確にする必要があります。
- ユーザーが最初に価値を実感するまでの時間(TTV)
- プロダクトの中で「また使いたい」と感じる瞬間(Aha体験)の発生率
- 課題がどれだけ解消されたかという主観的満足度
例えば、既存記事の価値提供型PdMの文脈で言えば、「どの指標を上げればユーザーの人生が少し良くなるか」を起点にKPIを設計します。その上で、売上や継続率は「利他の結果として伸びていくもの」と位置づけます。
こうしておくと、メンバーとの会話も変わります。「今月の売上が足りない」ではなく、「ユーザーが価値を感じ切れていないポイントはどこか?」という問いから議論が始まるようになります。
2. メンバーの「心のコンディション」を見る
稲盛さんは「心を高める」と何度も繰り返しています。マネージャーの仕事は、メンバーの心の状態を放置しないことだと私は考えています。
例えば、同じ業務量でも、あるメンバーは淡々とこなし、別のメンバーは明らかに消耗していることがあります。この差はスキルや時間管理だけでなく、
- 自分の仕事が誰の役に立っているのか見えていない
- 失敗したときに守ってもらえる実感がない
- チームに貢献できている実感がない
といった「心の状態」に由来していることが多いです。
ここでマネージャーができることは、派手なモチベーション施策ではありません。1on1や日々の雑談の中で、「あなたの仕事がこういう形でユーザーとチームの役に立っている」と具体的に言葉にすることです。
また、メンバーが不安や迷いを抱えていると感じたときは、タスクの整理や優先順位づけを一緒に行います。「そこは私が持つから、この範囲だけに集中してほしい」と線引きを示すことも、心を支える大事な役割です。
3. 失敗の責任を“構造”で引き受ける
利他的であることを言葉で語るのは簡単ですが、メンバーが本当に信頼できるのは、マネージャーの「責任の取り方」です。以前別記事でも書きましたが、「何かあっても俺が責任を取るから」の一言で終わらせてしまうのは、支援とは言えません。
私が意識しているのは、責任を構造で引き受けることです。
- KPI悪化の許容ラインと、その後のリカバリプランを事前に決めておく
- リスクの高い判断ほど、マネージャーが意思決定の最終レイヤーに入る
- 失敗したときの対外説明(上長・他部署・経営層)は、マネージャーが前に出る
こうしておくと、メンバーは「本当に守ってもらえる」という実感を持ちやすくなります。守られているからこそ、チャレンジできる。チャレンジがあるからこそ、成長もアウトカムも生まれていきます。
今日から試せる小さな実践
ここまで少し大きな話をしてきましたが、明日からすぐに試せるアクションもいくつか挙げておきます。
- 今追っているKPIの横に、「ユーザーにとっての価値指標」を1つ書き出す
- 週次のチームMTGで「誰のどんな人生が良くなるのか?」を改めて言語化する
- 1on1では、最低1つ「あなたのここがチームの役に立っている」と具体的に伝える
- リスクのあるプロジェクトには、「ここから先は私が前に出る」というラインを宣言する
- 自分の意思決定の動機を振り返り、「私心なかりしか?」を静かに自問してみる
どれも小さな一歩ですが、続けていくとチームの空気は確実に変わります。「このマネージャーは本気で自分たちのことを考えてくれている」とメンバーが感じ始めたとき、推進力も、プロダクトの質も、一段階上がっていきます。
まとめ──利他は、PdMリーダーの最強の武器になる
利他的であることは、きれいごとではありません。ユーザー、チーム、事業の三方よしを本気で目指すことは、ときに苦しい選択を迫られる道でもあります。
それでも私がこのスタンスを選び続けているのは、利他を軸にした方が、長期的には圧倒的に強いプロダクトとチームが育つと確信しているからです。短期の数字だけを追いかける組織より、ユーザーとメンバーを大切にする組織の方が、数年スパンで見たときに勝ち切れると感じています。
もし今、「成果を出さなければ」と自分を追い込みすぎている感覚があれば、一度立ち止まってみてください。誰のどんな幸せのために、このプロダクトを育てているのか。そこに立ち返ることが、PdMリーダーの成長哲学の出発点だと思います。
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“アウトカムを出すPdM”へ──型と環境を揃えて先に進む
この記事の考え方は、私が現場で「TTV短縮」「Aha率改善」「社内評価向上」に効かせてきたフレームの一部です。
- 要件定義や検証が“なんとなく”進んでしまう
- 正しいと思うのに周囲が動いてくれない
- 成果を言語化できず、評価につながらない
もし一つでも当てはまるなら、次の一歩は“環境を整えて自分を加速させること”だと思います。Notionテンプレ+実務フレーム+7日Sprintで、すぐに手を動かせる状態にした資料をまとめました。
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