結論:PRDは“仕様の百科事典”ではなく、価値仮説に基づき意思決定の速度を上げるための「交通整理表」です。
「また要件が揺れた。誰が何を決めたんだっけ?」——ローンチ前夜、Slackが騒がしくなるたびに、私はある失敗を思い出します。営業の一言で追加になった小さな改修が、翌朝にはCSの運用破綻を招き、データチームは空のイベントに頭を抱えた。誰も悪くない。けれど“言葉が揃っていなかった”。そこで使い始めたのがPRDです。完璧な設計図ではなく、「なぜやるか(価値仮説)」「何で成功とみなすか(Aha/TTV/D1)」「どこまでやるか(スコープ)」を最小の言葉で揃え、議論の摩擦を下げるための一枚。この記事では、意味と必要性から、会議での使い方、プレゼン台本、チェックリストまでを物語で深掘りします。
PRDの意味:仕様書ではなく“意思決定の器”
PRD(Product Requirements Document)は、機能の完全記述ではありません。チームが向かう“価値の北極星”を明文化し、学習ループを回すための器です。大切なのは、詳細を詰め込む前に「価値が生まれる瞬間=Aha」を一文で定義し、そこに到達するまでのTTV(p50/p95)をどれだけ短くできるかを計画すること。
- PRDは「何を作るか」より先に「なぜ作るか」を置く
- Aha→TTV→翌日活性(D1)の順で成功を定義する
- 合意形成のコストを最小化し、実験→学習の速度を上げる
- 詳細仕様は後続。PRDは“旗”であり、“地図”は薄くてよい
Aha→TTV→翌日活性の順で見ると意思決定が速くなります。詳しくはKPI設計と運用ガイドへ。
なぜ必要か:よくある失敗と、PRDが解決する3つの摩擦
PRDが無いと起きる失敗は、概ねこの3つに集約されます。物語で見てください。
(1)目的のズレ:営業は「受注の障壁を下げたい」、開発は「技術的負債を返済したい」、CSは「問い合わせを減らしたい」。会議では一瞬合意した気がするのに、実装が進むと再燃。——PRDは冒頭で「誰のどの課題を、なぜ今やるか」を一文で固定します。
(2)成功のズレ:ローンチ翌日、営業は「デモがしやすくなった」と喜ぶ一方、データは「イベントが記録されず効果測定不能」。——PRDはAhaとTTV(p50/p95)を置き、観測イベントを最初に定義します。
(3)スコープのズレ:Must/Should/Won’tが曖昧で、スプリント後半に仕様が膨張。——PRDはWon’tを公開して合意形成の土俵を固定します。
PRDの最小構成:10分で置く“骨”
詳細より“骨”。まずはこれだけ。議論しながら肉付けすれば良いのです。
1. 目的(なぜ今やるか)
2. 成功指標(Aha・TTV p50/p95・D1)
3. スコープ(Must/Should/Won’t)
4. ユーザーストーリー(最大3本)
5. 体験フロー(入口→Ahaまでのパス)
6. ログ/計測(イベント・ダッシュボード最小集合)
7. リスクと検証(最初に潰す前提)
8. 計画(MVP→β→一般提供のゲート)
この骨さえ置けば、仕様の詳細は後から十分に追いつきます。目的と指標が明確なら、合意は速く、手戻りは小さい。
ストーリー:PRDがチームを救った1週間
月曜。セールスから「提案時に入力項目が多いせいで顧客が詰まる」と相談。CSは「誤入力が多い」と嘆く。開発は「既存テーブルが複雑」と渋い顔。私はPRDの骨だけを10分で置いた——対象は“初回登録の法人管理者”、Ahaは“初回のチーム作成完了”、TTVはp50=3分・p95=7分、Mustは「2ステップ登録」、Won’tは「SSO対応」。その場で体験フローをテキストで書き、ログは3イベントに限定。議論は収束し、火曜にはMVPが動き、水曜に社内テスト。木曜にβ、金曜に観測。p95は8分→5分、問い合わせは30%減。——完璧な仕様書は無かった。でも“言葉が揃っていた”。
会議での使い方:PRDを中心に据えるファシリの型
PRDは会議を短くします。進め方の型を置きます。
- 5分:目的の再確認(PRDの冒頭を音読)
- 10分:成功指標の妥当性(Aha定義とTTV p50/p95の根拠)
- 10分:スコープ確認(Must/Should/Won’tの線引き)
- 10分:リスクと検証(最初に潰すべき1点)
- 5分:観測計画(イベントとダッシュボード)
議論が逸れたらPRDに戻る。「この変更はAhaとTTVを縮めるか?」を合言葉にするだけで、意思決定は驚くほど速くなります。
プレゼン台本:経営会議での3スライド
PRDを経営に通す時の“最小3枚”。
Slide 1:なぜ今やるか(対象/課題/事業価値)
Slide 2:成功の定義(Aha・TTV p50/p95・D1)+計測方法
Slide 3:スコープ(Must/Should/Won’t)+MVP計画とゲート
台詞例:「今回のAhaは“初回チーム作成完了”です。TTVはp50=3分、p95=7分を目標。Won’tはSSOと権限管理。まずはMVPで3イベントだけを観測し、翌週の定例でAha到達率とp95の改善幅を報告します。」
レビュー観点:チェックリスト(コピペ可)
[目的] 誰の何の課題か一文で言える/事業価値との因果が説明できる
[指標] Ahaが行動で定義されている/TTV p50/p95に数値目標がある/D1の再訪定義が明確
[スコープ] Must/Should/Won’tが分離/Won’tの理由が利害関係者に説明できる
[体験] 入口→Ahaの主要パスが文章で可視化/摩擦(入力・待ち時間)の見積りあり
[計測] イベントが最小集合/ダッシュボードで翌日見える
[検証] 失敗しても学べる設計(仮説→方法→判断基準)
[計画] MVP→β→一般提供のゲートと責任者が明記
最小テンプレ:明日からの“骨”
以下は最小テンプレ。スプリント計画の冒頭10分で埋めましょう。
タイトル/日付/作成者:
1. 目的:
2. 成功指標:Aha=__/TTV p50=__分 p95=__分/D1=__%
3. スコープ:Must/Should/Won’t
4. ユーザーストーリー:(最大3本)
5. 体験フロー:(入口→Ahaまで)
6. ログ/計測:(イベント最小集合)
7. リスクと検証:(最初に潰す一点)
8. 計画:(MVP→β→一般提供、ゲート/責任者)
関連知識で深める:課題→解決の型と価値設計
PRDの言葉を強くするには、課題→解決の因果と価値仮説の設計が要です。次の記事で基礎を固めてください。
関連記事
FAQ
- Q. PRDは長く書くほど良い?
- A. いいえ。目的・指標・スコープの骨で合意し、詳細は進めながら追記するほうが速く学べます。
- Q. PRDと仕様書の違いは?
- A. PRDは「なぜ・何を・どう測る」。仕様書は「どう実装する」。まずはPRDで方向を合わせます。
- Q. どの会議で使う?
- A. キックオフ、スプリント計画、経営レビュー、リリース後の観測共有。いずれもPRDを画面中央に。
▼有料note(直リンク)


コメント