深夜のデバッグ明け。私は新規登録のフローを、ユーザーのつもりでなぞりました。
「名前、住所、利用目的……まだ終わらない。戻ると消えた。もう明日でいいや。」
画面を閉じる指が止まった瞬間、胸の奥で小さなベルが鳴りました。ここがTTV(Time to Value)を伸ばしている犯人だ。翌朝、私はチームにこう言いました。
「機能を増やす前に、最初の1分を直そう。価値の“入口”を広げれば、残りは勝手に進む」
オンボーディングは、機能紹介のスライドショーではありません。ユーザーを最初の価値(Aha)へ連れていく短い道案内です。この記事では、未経験〜ジュニアPdMでも今日から動けるように、設計原則→ありがちな摩擦→90分設計ワーク→1週間の改善メニュー→計測テンプレの順でまとめます。定義やKPIの置き方は関連記事もあわせてどうぞ:PdMが成果を出すKPI設計と運用 / インタビューの聞き方はユーザーインタビュー基本。
1. オンボーディング=“Ahaに最短着地”の設計図
はじめに、オンボーディングのゴールをひとことで固定します。
「このフローは、Ahaに最短で連れていくために存在する」
Ahaの定義は“観測できる行動”で。例:「保存が成功」「初回の送信が完了」。売上などの遅行指標は背中で追わせればOKです(詳細はKPI設計)。
2. 設計原則:最初の1分に効く、5つの約束
いきなり画面を作り始める前に、チームで“約束ごと”を握るとスピードが上がります。以下は私がいつも置く5点です。
- 例示>説明:長文の説明より、良い例・悪い例のカードを先に見せる。
- 状態保持:戻っても入力が消えない。ユーザーの“勇気コスト”を下げる。
- 段階化:「あとで設定」を許可。初回価値に不要な項目は後回し。
- 進捗の可視化:「残り1分」「2/3」など、先が見える表現を入れる。
- 1クリックで価値:最初の保存・送信・視聴など、価値行動は1タップで届くように。
3. ありがちな“摩擦”と、その場で直せる対処
ユーザーが止まるポイントは似ています。会議で使える“症状→処方箋”のショートリストを置きます。
- 症状:入力が長い/途中で不安になる
対処:状態保持+段階化。まずは必須2項目だけ→残りは「あとで」。 - 症状:何が正解かわからない
対処:例示カード(良い例・悪い例)。説明は最小。 - 症状:先が見えず、やめたくなる
対処:進捗の可視化。「残り1分」「あと2項目」で背中を押す。 - 症状:最初の価値に届かない
対処:デモデータ/初期レコメンドで“とりあえず触れる”を確保。 - 症状:戻る→消える→終了
対処:自動保存・Undoを先に入れる。ミスは戻せる前提に。
症状の特定は定性が速いです。聞き方はインタビュー基本が役立ちます。
4. 90分“オンボ設計ワーク”(台本つき)
会議は準備で8割決まります。最初の5分で“どこまでを決めるか”を明言すると、議論が迷いません。以下は実際に使っている台本です。
- 5分:目的宣言——「Ahaに最短で着地する道を決めます。KPIはAha率/TTV。IN/OUTはこちら」
- 15分:ユーザーの道順を左→右へ——登録→候補を見る→保存→後で編集。
- 25分:止まる瞬間の付箋出し——CSの“実際の問い合わせ”を優先。
- 25分:薄い縦スライスを決める——状態保持・例示・進捗バーでAhaへ直行。
- 20分:PRDに転記→判定日を置く——受け入れ基準は“観測できる言葉”で。PRDの書き方
5. 1週間でTTVを詰める“小さな改善”メニュー
大改修は要りません。まずは小さく、確実に効く順で。
- Day1:戻っても消えない——自動保存+Undo。文言は「安心して戻れます」。
- Day2:例示カード——良い例>説明。1枚で迷いを潰す。
- Day3:既定値を賢く——よく選ばれる選択肢を初期表示。
- Day4:進捗バー——「残り1分」で推進力を出す。
- Day5:初期レコメンド——デモデータで“触れば分かる”を作る。
優先の迷いは5分で解決。優先順位フレーム(価値×確度×コスト)に当てて並べ替えます。
6. 計測テンプレ:AhaとTTVだけで始める
ダッシュボードを完璧にする必要はありません。“見れば動ける3行”からスタート。
■イベント(最小3本)
app_open … 開始点
save_success … Aha到達(成功時のみ)
d1_active … 翌日活性(価値行動の再実行)
■ダッシュボード(トップ)
1) Aha到達率(前週比/当週目標)
2) TTV中央値(分)
3) 翌日活性(%)
指標の置き方・定義の粒度はKPI設計と運用が詳しいです。
7. 会話で読む“現場の1分”
私:「どこで一番止まりました?」
ユーザー:「戻ると消えるのが怖くて……」
私:「もし“自動保存+Undo”があれば?」
ユーザー:「続けられます。例が1つあると、もっと早いかも」
この短い往復で、私たちは“不安→状態保持と例示”という正解にたどり着きました。聞き方の基礎はこちら。
8. デザインの即効パターン(ミニ仕様つき)
エンジニア・デザイナに渡せる最小の“契約”を書いておくと実装が早まります。
- 例示カード——カード1枚=スクショ+短いキャプション+OK/NG。配置はフォームの上。
- スケルトンUI——読み込み中は骨格を見せ、待たせている感を消す。
- 初期レコメンド(デモ)——最初の画面に“触って分かる”サンプルを1つ。
- 進捗バー——p95が1分以内に収まる幅。「残り1分」の文言は固定で。
9. フェイルセーフ&ガードレール
先に“止め時”を決めると、ローンチ後の判断がブレません。
- ガードレール:問い合わせ/新規UUの増加は一定以内、Ahaパスのエラー率は1%未満。
- 止め時:判定日(W2/W4)でAha/TTVが横ばいなら、仕様ではなく“順序と文言”から再設計。
10. PRD転記の雛形(コピペ用・観測可能な言葉で)
## Decision Statement
本PRDは“保存までの道”を短縮し、Aha到達率↑/TTV↓を合意するための材料である。
## スコープ(IN/OUT/非目標)
IN:状態保持/例示カード/進捗バー OUT:推薦アルゴリズム 非目標:短期売上
## ユーザーストーリー
S1:ユーザーとして、候補カードから1タップで保存を完了したい
## 受け入れ基準(S1)
- 1秒以内に保存が反映される(スナックバー表示)
- Undoで取り消し可能
- 戻っても直前の入力状態が保持される
- save_success が送信される
PRD全体の型は要件定義の書き方を参照。
11. つまずきの直し方(初心者向け)
初期は誰でも遠回りします。短く直して、前へ。
- “全部きれいに作る”病→ Ahaまでの道だけを先に磨く。
- 指標が売上だけ→ Aha/TTV/翌日活性の“3行”で判断。
- 会議が長い→ Now/Next/Laterと判定日を先に置く(最初の90日ガイド)。
12. 関連記事(内部リンク)
- PdMが成果を出すKPI設計と運用の実践ガイド
- ジュニアPdMが身につけたい「ユーザーインタビュー」の基本と実践
- 仕様書/要件定義の書き方(現場テンプレ)
- 優先順位判断フレームワーク完全解説
- PdM転職直後の最初の90日を完全ガイド
13. 有料note&特典テンプレ
この記事のオンボ設計シート(Aha定義/摩擦チェック/小改善メニュー)と計測テンプレは、有料noteで配布中。特典:PdMスキルテンプレート集(PDF)/キャリア戦略シート(PDF)。
14. まとめ:最初の1分が、すべてを変える
オンボーディングは“道案内”です。
例示で迷いを潰し、状態保持で勇気を守り、進捗で背中を押す。Ahaに着地すれば、TTVは自然と短くなる。
まずは今日、戻っても消えない+例示カード+残り1分の3点だけ入れてみてください。静かに、でも確実に、数字が動き始めます。


コメント