結論:“覚えていない情報は入力させない”。この方針で、対象フォームのCVRを3%から10%へ改善しました。
固有名詞と一部の数値は匿名化していますが、プロセスは実体験そのものです。この記事は「物語→手順→PRD→運用」までを一つの流れで読めるように構成しました。読者の手元で再現可能なよう、各セクションに“そのまま使える”コピペ素材を添えています。
- 1. 課題:ユーザーは「特定の項目」を覚えていない
- 2. 診断:ファネル化して“滞留の山”を可視化
- 3. 仮説:手掛かり2点→システムが候補提示なら勝てる
- 4. 定量:社内を動かす“根拠”を先に作る
- 5. PRD化:旗・道・数字を1分で言い切る
- 6. スコープ:Must/Should/Won’tで“順番”を守る
- 7. 体験フロー:入口→Ahaを“3ステップ”に削る
- 8. AC(受け入れ基準):主観語を禁止し、数で締める
- 9. 計測とダッシュボード:毎朝5分で“今”を判定する
- 10. 成果:CVR 3%→10%、TTV p95 大幅短縮、D1 上昇
- u-note:意思決定の順路を固定する
- FAQ
- 【付録】最終PRD(この体験をもとにした完成版)
1. 課題:ユーザーは「特定の項目」を覚えていない
最初の壁は、ユーザーの記憶そのものでした。登録時、ある特定の項目について、正確な値を思い出せないユーザーが多く、途中で作業を中断したり、書類を取りに行ったりする様子がログとインタビューから繰り返し観測されました。
“思い出せない”という感情は、単なる不便ではありません。入力ミス、バリデーション戻り、画面往復を誘発し、体験の時間(TTV)の尾(p95)を長くします。結果として、フォーム全体の離脱率が高止まりし、事業側のデータ取得はボトルネック化していました。
- 要点:離脱は“意欲の欠如”ではなく“記憶の不一致”が引き起こす
- 要点:入力ミス→戻り→長考のループがp95を悪化
- 要点:データ精度を初回で満たそうとすると、道が長くなる
【観察メモ】
- 「書類を取りに行く」発言の反復
- 同一項目での再入力ログとエラー戻りが集中
まとめ:課題の正体は“記憶依存”。
具体例:インタビューで「覚えていないから後でにする」が頻出。ログでは同項目に90秒以上滞在する長考がp95帯で顕在化。
2. 診断:ファネル化して“滞留の山”を可視化
感覚論をやめ、ログを整えて歩留まりを可視化しました。ページ表示、項目フォーカス、入力、エラー、送信の粒度でイベントを定義し、ステップごとの離脱と滞在時間をファネルで俯瞰します。すると、問題の特定の項目で滞留と離脱が支配的であることが一目で分かりました。
- 定義:
view_entry → focus_specific_field → input_specific_field → error_specific_field → submit_form - 所見:p95のTTVに占める“項目内長考”が大きい
- 一致:インタビューの発話(覚えていない)とログ(長考・戻り)が整合
【コピペ素材:ログ設計】
events:
- view_entry
- focus_specific_field
- input_specific_field
- error_specific_field
- submit_form
- achieve_aha
まとめ:直すべきはフォーム全体ではなく“一点”。
具体例:長考+戻りがこの項目に集中し、他項目の改善は費用対効果が低いと判明。
3. 仮説:手掛かり2点→システムが候補提示なら勝てる
ここで方針転換を宣言しました。ユーザーに思い出させるのではなく、ユーザーが覚えている“手掛かり2点”を鍵に、システム側で候補を提示し、選択だけで先に登録を完了させる――この設計なら、Aha到達が速くなり、CVRも跳ねるはずです。
- 狙い:記憶→候補提示への責務移譲でp95短縮
- 前提:正確値は後段で確定(体験と精度の“順番”を分離)
- 期待:CVR 3%→10%、TTV p95 大幅短縮、D1 上昇
【仮説の一文】
「手掛かり2点+候補選択」でAhaに最短到達。正確性は後段ジョブで回収する。
まとめ:価値の速達を先に、精度は仕組みで担保。
具体例:候補提示のモックを用いたリハーサルで、説明無しでも完了できることを確認。
4. 定量:社内を動かす“根拠”を先に作る
正論は多い。だからこそ、先に数で固めます。過去データのサンプルで「手掛かり2点→正規値再構成率」を測り、十分に高い一致を確認。さらに、疑似AB(特定の項目=任意化+後追い確定)では完了率が大幅改善、誤入力は微増にとどまりました。
- 再構成率:高一致(詳細値は匿名化)
- 偽AB:完了率 大幅上昇/誤登録率 微増(許容)
- 結論:体験→先、精度→後の“順番”は実用に耐える
【コピペ素材:定量報告スライド見出し】
・再構成率(手掛かり2点→正規値)=十分に高い
・完了率:任意化で+ΔΔpt/誤登録:+δpt(許容)
まとめ:意見ではなく根拠で押す。
具体例:営業・CSの心配は“後段確定SOP”の提示で沈静化。
5. PRD化:旗・道・数字を1分で言い切る
PRDは“旗(Why)・道(How)・数字(Proof)”で一文ずつ。長文は不要です。最初の1分で、会議の土俵を固定します。以降の議論はスコープ票(Must/Should/Won’t)とAC(受け入れ基準)に戻して裁きます。
- 旗:覚えていない情報は入力させない
- 道:手掛かり2点→候補提示→完了トースト
- 数字:CVR 3%→10%/TTV p95 ≤ 7分/D1 ≥ 40%
【冒頭30秒(読み上げ用)】
「本件は“覚えていない情報を入力させない”設計への転換です。
手掛かり2点で候補を提示し、選ぶだけでAha。正確性は後段で回収します。」
まとめ:1分で“旗・道・数字”。
具体例:この言い切りで、会議の論点が“p95短縮”に集中。
6. スコープ:Must/Should/Won’tで“順番”を守る
善意の追加は必ず膨張します。最初に順番を決め、票に刻むことで、価値直結の投資へ集中させます。Won’tは否定ではなく“順番の管理”です。
- Must:手掛かり2点入力/辞書参照で自動補完/完了トースト/イベント一意化
- Should:候補が多い場合のプレビュー/後追い確定ジョブ
- Won’t:初回からの“特定の項目”厳格入力/複雑な認証の前倒し実装
【スコープ票 v1.0】
Must:____ Should:____(代替:__)
Won’t:____(再審:◯/◯週)
まとめ:正論は順番で裁く。
具体例:SSOはWon’t+再審日に退避し、p95短縮の施策を先行。
7. 体験フロー:入口→Ahaを“3ステップ”に削る
画面は少ないほど速い。入口で手掛かり1を自動整形、手掛かり2は曖昧入力OKで候補生成。最大5件に絞った候補から選択したら、即Aha(完了トースト)。候補0件は「後で確定」に流し、登録を先に完了させます。
1) 手掛かり1入力(オート整形)
2) 手掛かり2入力(曖昧OK)→ 候補提示(最大5件)
3) 候補選択 → 完了トースト(achieve_aha)
まとめ:道は“直線”にする。
具体例:候補が5件超えたケースで迷いが増えたため、候補上限を設けてp95を安定化。
8. AC(受け入れ基準):主観語を禁止し、数で締める
「スムーズ」「迷わない」は合否になりません。ACはクリック数・時間・観測の三点で条文化します。QAと計測は、この条文の代弁者です。
AC#A:入口→Aha 最大3クリック
AC#B:TTV p50 ≤ 3分 / p95 ≤ 7分(起点=view_entry/終点=achieve_aha)
AC#C:完了トーストと同時に 'achieve_aha' を一意発火(1操作=1イベント)
AC#D:エラーは同画面で自己解決(整形・補完は自動)
まとめ:ACは“価値の合否”。
具体例:ACをチケットに転記し忘れた案件でp95改善が出ず、次スプリントで修正。
9. 計測とダッシュボード:毎朝5分で“今”を判定する
議論を数に変え、毎朝5分で意思決定します。Aha到達・TTV p50/p95・離脱Top3・入口別Ahaの4タイルだけ。指標は少ないほど、行動は速くなります。
events: view_entry, input_hint1, input_hint2, select_candidate, achieve_aha, return_next_day
tiles:
- Aha到達率(昨日・7日移動)
- TTV p50/p95(アラート:p95 > 目標+20%)
- 離脱Top3(input_error, wait_over_5s, no_candidate)
- 入口別Aha(広告/直打ち/招待リンク)
まとめ:ダッシュボードは“4枚で十分”。
具体例:KPIを絞っただけで、会議が“改善の順番”に集中。
10. 成果:CVR 3%→10%、TTV p95 大幅短縮、D1 上昇
ローンチ後、対象フォームのCVRは3%から10%に改善。TTVのp95は大幅に短縮し、翌日活性(D1)も上昇しました。ユーザーは“思い出さなくていい”。事業側は“正確性を後段の仕組みで担保できる”。この両立が、ビジネスインパクトを最大化しました。
- ユーザー価値:最小入力で登録完了(Ahaに最短到達)
- 事業価値:後段確定のSOPでデータ精度を回収、営業・分析が安定
【三行報告フォーマット】
Aha(+Δpt)/ p50(-Δ秒)/ p95(-Δ秒)/ D1(+Δpt)|
学び:候補上限の設定で認知負荷が低下|
次:後追い確定SOPの自動化(判定 ◯/◯)
まとめ:価値→速さ→正確性の“順番”が勝因。
具体例:候補10件→5件に削った週から、p95の尾が明確に縮んだ。
u-note:意思決定の順路を固定する
Aha→TTV→翌日活性の順で見ると意思決定が速くなります。詳しくはKPI設計と運用ガイドへ。
関連記事
FAQ
- Q. 正確性を初回で満たさないのは危険では?
- A. “後段確定”をSOP化し、確度フラグ(provisional→verified)で運用します。価値の速達と精度の両立が可能です。
- Q. 再現の第一歩は?
- A. 行動ログを整えて、離脱の“山”を一点に特定。次に“手掛かり2点+候補提示”のモックで最短フローを検証してください。
- Q. どの領域でも効きますか?
- A. ユーザーが正規値を覚えていない項目(型番・車両・医療名など)は高い再現性があります。
▼有料note(直リンク)
【付録】最終PRD(この体験をもとにした完成版)
以下は、上記事例を“そのまま現場で使える”PRDとしてまとめたものです。固有名詞は匿名化し、運用で必要な条文(AC・イベント・ダッシュボード・スコープ・ゲート)を完備しています。
【PRDタイトル】
覚えていない情報は入力させない:手掛かり2点+候補提示でAha最短化(匿名化版)
【目的(旗)】
ユーザーが正規値を覚えていない“特定の項目”の入力責務をシステム側へ移し、
Aha(登録完了)までのTTV(特にp95)を短縮してCVRを引き上げる。
【対象セグメント】
初回登録ユーザー(既存・新規を問わず該当フロー利用者)
【体験(道)】
1) 手掛かり1(自動整形)
2) 手掛かり2(曖昧入力OK)→ 候補(最大5件)提示
3) 候補選択 → 完了トースト表示 = Aha
【成功指標(数字)】
- CVR:3% → 10%
- TTV:p50 ≤ 3分 / p95 ≤ 7分(起点=view_entry/終点=achieve_aha)
- D1:Aha達成者の翌日活性 ≥ 40%
【受け入れ基準(AC)】
AC#A:入口→Aha は最大3クリック(候補選択含む)
AC#B:TTV p50 ≤ 3分 / p95 ≤ 7分
AC#C:完了トースト表示と同時に 'achieve_aha' 一意発火(1操作=1イベント)
AC#D:エラーは同画面で自己解決(整形・補完は自動、戻り遷移なし)
【イベント&スキーマ(観測)】
- view_entry
- input_hint1
- input_hint2
- select_candidate
- achieve_aha { session_length(sec), steps(int), idempotent_key }
- return_next_day
emit_timing: 完了トースト表示時に 'achieve_aha'
idempotent_key: aha_id(同操作の二重発火禁止)
【スコープ(Must/Should/Won’t)】
Must:手掛かり2点入力/辞書参照補完/完了トースト/イベント一意化
Should:候補プレビュー(多候補時)/後追い確定ジョブ
Won’t:初回で“特定の項目”厳格入力/SSOなど初期価値に非直結の複雑化
【非機能(抜粋)】
- 候補検索 応答P95 ≤ 200ms
- 初回描画TTI ≤ 2.5s(4G相当)
- 稼働率 99.9% / 監査ログ保持 180日
【ダッシュボード(毎朝5分)】
Tiles:Aha到達率/TTV p50/p95(p95警告:目標+20%超)/離脱Top3/入口別Aha
【ゲート&判定】
- β → GA:CVR ≥ 10% & p95 ≤ 7分 & D1 ≥ 40%
- 決裁者:PdM(A)/ Eng-Lead(R)/ Sales, CS(C)/ Exec(I)
【変更管理(v+0.1)】
v1.0 初版(匿名化版)/v1.1 候補上限=5へ/v1.2 後追い確定SOPの自動化をShouldに追加


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