「登録までは来ているのに、継続しない」「最初の一回で離脱してしまう」——ゼロワン〜グロースのどのフェーズでも起きる悩み。鍵はオンボーディングと、TTV(Time to Value:ユーザーが“最初の価値”に到達するまでの時間)です。この記事では、未経験〜ジュニアPdMが明日から回せる設計テンプレ/計測KPI/会話例/失敗回避をまとめます。私の現場経験(企業名・数値は非公開)で有効だったやり方も織り込みました。
1. 定義合わせ:オンボーディング=“価値までの最短ルート作り”
オンボーディングは「機能説明」ではなく、ユーザーが価値に到達するまでの摩擦を抜く仕事。式で表すと、
TTV = 初回価値に気づいた瞬間 - 最初の接点
ここで言う「初回価値」は、プロダクトごとに異なるアクティベーションイベントです(例:1件の検索結果を保存/1回の送金完了/初回のリマインド設定など)。このイベントの定義が曖昧だと、努力が空回りします。
2. 設計フレーム:5枚スライドで決める“FAST-ON”
私がチームで使う簡易フレームはFAST-ON(Friction, Aha, Steps, Time, Objective & North-star)。1スプリントで意思決定できる粒度に落とします。
- Friction(摩擦):現状の詰まりを列挙(UI・認知・文言・権限・データ入力)。
- Aha(価値の瞬間):アクティベーションの1行定義とスクショ。
- Steps(到達ステップ):Ahaまでの最短3〜5手に限定して描く。
- Time(時間):各ステップの期待所要時間(秒)を仮置き。
- Objective & North-star:今回の目標(例:初回価値到達率+10pt)と、北極星指標との関係。
この5枚をSlack/Notionで共有してから設計に入ると、関係者の合意速度が上がり、実装がブレません。
3. 会話で学ぶ:良いオンボーディングは“説明しない”
私:「最初に『気持ちよかった瞬間』はどこでした?」
ユーザー:「保存ボタンを押したら、候補が自動で並んだ時ですね」
私:「その前に、どこで止まりました?」
ユーザー:「プロフィール入力……長くて途中で戻っちゃいました」
私:「戻った時、入力内容は残っていました?」
ユーザー:「消えてました。やり直すならやめようかなと」
この短い会話から、保存の気持ちよさ=Aha、長い入力と状態保持欠如=摩擦が見えます。つまりやることはシンプル:最短で保存まで連れていく、入力は段階化、戻っても消えない。説明よりも既定値/例示/状態保持が効きます。
4. 実装テンプレ:TTV短縮の“3つのレバー”
- レバー1:手数を減らす(Step削減)
- フォームは3項目→先延ばしへ。詳細はAha後に。
- OAuthやカメラロールなど、端末の既存資産を使って初期入力を省略。
- 「あとで設定」ボタンを置き、選択の自由を担保。
- レバー2:1手の負荷を下げる(摩擦低減)
- 例示 > 説明。良い例・悪い例をカードで即提示。
- 状態保持とUndo。戻っても消えない安心を。
- 進捗の可視化。「残り1分」など時間の見通しを出す。
- レバー3:先に価値を見せる(先出し価値)
- 空の状態をやめ、デモデータや初期レコメンドで“使える感”。
- シャドー完了(仮完了)で達成感を先出し、後から詳細設定へ。
5. 計測KPI:オンボーディングは“先行指標”で見る
本丸の北極星(継続・売上)に効かせるには、先行指標を設計します。おすすめは次の3点。
- 初回価値到達率(%):初回セッション内にAha達成した割合。
- TTV中央値(分):Aha到達までの時間。施策の一番わかりやすい効果指標。
- 2日目アクティブ率:翌日の再訪。Ahaの説得力をチェック。
KPIを“設計して動かす”視点は、こちらが詳しいです:PdMが成果を出すKPI設計と運用の実践ガイド。
6. スプリント運用:A/Bではなく“AB→計測→AB改”
立ち上げ期はトラフィックが乏しく、統計的有意にこだわると進みません。私のやり方は、
- 小さくAB(文言・既定値・順序)→ ミニ目標で評価(TTV・Aha率)。
- ユーザーインタビューとログを見て“なぜ”を補完。
- 翌週はAB改(前週の勝ち案を起点に微修正)。
判断の拠り所を増やしたい方は、こちらもどうぞ:優先順位判断フレームワーク完全解説。
7. よくある失敗と回避策
- 失敗:フォームで“情報を取り切ろう”とする → 回避:Aha後に聞く。段階的プロフィールに。
- 失敗:全部の機能を説明する → 回避:Ahaに直結しない案内は後回し。
- 失敗:ユーザー像がふわっとしている → 回避:ペルソナではなく直近の行動群で対象を定義。
- 失敗:KPIが売上一本 → 回避:先行指標(Aha率・TTV・翌日活性)を必ず置く。
“ユーザー起点”のつもりで落とし穴にはまるパターンは、こちらが参考になります:PdM初心者が陥りがちな「ユーザー起点」の落とし穴とその対策。
8. そのまま使えるチェックリスト(保存版)
[設計前]
□ Aha(初回価値)を1行で定義したか
□ Ahaまでの最短3〜5手を書いたか
□ 各手の期待所要時間(秒)を仮置きしたか
[UI/体験]
□ 例示>説明になっているか(カード/モック)
□ 入力の段階化(後回しボタン含む)
□ 状態保持・Undoはあるか
□ 進捗の可視化(残り〇分)
[計測]
□ Aha到達イベントを計測しているか
□ TTVの計測(開始点/終了点の定義は明確か)
□ 翌日活性の取得(2nd day active)
[運用]
□ 週次でAB→AB改のループを回す枠があるか
□ 直近ユーザーへの定性ヒアリング枠を確保したか
9. 物語:3つの“抜き”でTTVが静かに縮む
立ち上げ期、私たちは①入力の段階化、②状態保持、③先出し価値の3つだけに集中しました。会議では派手さはないと言われましたが、デイリーのダッシュボードでは着実にAha率が伸び、翌日の活性も上向きに。何より、カスタマーサポートから「最初でつまずく問い合わせが目に見えて減った」と声が上がり、チームの空気が変わりました。地味でいい。最初の価値までの距離を詰めることが、最速のグロースでした。
10. 関連記事(内部リンク)
11. 有料note&特典テンプレ
オンボーディング用の文言テンプレ(例示カード/プログレッシブ入力コピー)と計測イベント定義書の雛形は、有料noteで配布しています。購入者特典として以下PDFも利用可能です。
- PdMスキルテンプレート集(PDF)
- キャリア戦略シート(PDF)
12. まとめ:TTVは“削る設計”でしか短くならない
ユーザーは“説明”で動きません。既定値・例示・状態保持・先出し価値で、ただ価値に手を伸ばせる状態を作る。KPIはAha率とTTV、翌日活性で見る。これを週次で回せば、オンボーディングは静かに、でも確実に効きます。次のスプリントで、まず1つの摩擦を抜きましょう。


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